「耐火構造」について解説。準耐火構造や防火構造との違いとは?
「耐火構造」とは、通常の火災が終了するまでの間、当該火災による建築物の倒壊や延焼を防止するために必要とされる性能を有した構造を指します。建築物の階数や建てられる地域によって基準が決まっているため、これから建築物の設計や適切な消防設備の施工を検討される方は正しく理解しておくべき項目です。
この記事では、「耐火構造」や似た言葉である「準耐火構造」「防火構造」について解説します。
目次
「耐火構造」「準耐火構造」「防火構造」の概要と違い
建築物の設計や適切な消防設備の施工を検討するにあたっては、まず建築基準法が定める「耐火構造」について理解しておく必要があります。また、耐火構造と似た用語である「準耐火構造」「防火構造」についても、概要や違いを押さえておかなければなりません。
- 耐火構造とは
- 準耐火構造とは
- 防火構造とは
それぞれ詳しく確認しておきましょう。
耐火構造とは
耐火構造については、建築基準法第2条第7号で以下のように定められています。
耐火構造 壁、柱、床その他の建築物の部分の構造のうち、耐火性能(通常の火災が終了するまでの間当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために当該建築物の部分に必要とされる性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄筋コンクリート造、れんが造その他の構造で、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。
出典:建築基準法第2条第7号
こちらの条文からも明らかなとおり、耐火構造は耐火性能を備えていなければなりません。階数や構造部分によって異なりますが、「最長3時間の火災」に耐え得ることが求められます。
また、建築基準法第2条第7号によると、耐火構造にするためには「国土交通大臣が定めた構造方法を用いる」か「国土交通大臣の認定を受けたもの」にするか、いずれかにする必要があります。そして、そのいずれも建築基準法施行令第107条に適合させなければなりません。
(耐火性能に関する技術的基準)
第百七条 法第二条第七号の政令で定める技術的基準は、次に掲げるものとする。
一 次の表の上欄に掲げる建築物の部分にあつては、当該各部分に通常の火災による火熱が同表の下欄に掲げる当該部分の存する階の区分に応じそれぞれ同欄に掲げる時間加えられた場合に、構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じないものであること。
二 前号に掲げるもののほか、壁及び床にあつては、これらに通常の火災による火熱が一時間(非耐力壁である外壁の延焼のおそれのある部分以外の部分にあつては、三十分間)加えられた場合に、当該加熱面以外の面(屋内に面するものに限る。)の温度が当該面に接する可燃物が燃焼するおそれのある温度として国土交通大臣が定める温度(以下「可燃物燃焼温度」という。)以上に上昇しないものであること。
三 前二号に掲げるもののほか、外壁及び屋根にあつては、これらに屋内において発生する通常の火災による火熱が一時間(非耐力壁である外壁の延焼のおそれのある部分以外の部分及び屋根にあつては、三十分間)加えられた場合に、屋外に火炎を出す原因となる亀裂その他の損傷を生じないものであること。
建物の部分ごとに求められる耐火性能については、以下の表を確認してください。
建築物の部分 | 時間 | ||||
---|---|---|---|---|---|
最上階および最上階から数えた階数が2以上で4以内の階 | 最上階から数えた階数が5以上で9以内の階 | 最上階から数えた階数が10以上で14以内の階 | 最上階から数えた階数が15以上で19以内の階 | 最上階から数えた階数が20以上の階 | |
間仕切壁(耐力壁) | 1時間 | 1.5時間 | 2時間 | 2時間 | 2時間 |
外壁(耐力壁) | 1時間 | 1.5時間 | 2時間 | 2時間 | 2時間 |
柱 | 1時間 | 1.5時間 | 2時間 | 2.5時間 | 3時間 |
床 | 1時間 | 1.5時間 | 2時間 | 2時間 | 2時間 |
梁 | 1時間 | 1.5時間 | 2時間 | 2.5時間 | 3時間 |
屋根 | 30分間 | ||||
階段 | 30分間 |
建築基準法施行令第107条を読んでみると、階数によって耐火性能の時間が決まっており、下の階ほどその時間が長くなるように定められています。これは、火災の避難の際にエレベーターや階段で上階から下階に向けて避難することを想定しているからです。下階が燃えてしまうと構造的に建物全体が崩壊するリスクが高まるため、下階は耐火性能を高くしておく必要があります。
また、「国土交通大臣の認定を受けたもの」には、不燃材料を使用した鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)、鉄骨造(S造)の両面を耐火被覆した構造、コンクリートブロック造などが含まれます。さらに、近年は技術の進歩もあり、木造(W造)でも耐火構造として認定されるようになりました。
準耐火構造とは
「準耐火構造」とは、通常の火災による延焼を抑制する性能を有した構造のことです。具体的には「通常の火災による延焼を防ぎ、最長で1時間の火災に耐えられる性能」を備えていることが求められており、冒頭で触れた耐火構造よりも要件は緩く設定されています。
準耐火構造については、建築基準法で次のように定められています。
準耐火構造 壁、柱、床その他の建築物の部分の構造のうち、準耐火性能(通常の火災による延焼を抑制するために当該建築物の部分に必要とされる性能をいう。第九号の三ロ及び第二十六条第二項第二号において同じ。)に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。
建築基準法第2条第7号の2で触れられている「準耐火性能」の具体的な技術基準については、同法施行令第107条の2のとおりです。
(準耐火性能に関する技術的基準)
法第二条第七号の二の政令で定める技術的基準は、次に掲げるものとする。
一 次の表の上欄に掲げる建築物の部分にあつては、当該部分に通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後それぞれ同表の下欄に掲げる時間において構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じないものであること。
二 壁、床及び軒裏(外壁によつて小屋裏又は天井裏と防火上有効に遮られているものを除く。以下この号において同じ。)にあつては、これらに通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後四十五分間(非耐力壁である外壁及び軒裏(いずれも延焼のおそれのある部分以外の部分に限る。)にあつては、三十分間)当該加熱面以外の面(屋内に面するものに限る。)の温度が可燃物燃焼温度以上に上昇しないものであること。
三 外壁及び屋根にあつては、これらに屋内において発生する通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後四十五分間(非耐力壁である外壁(延焼のおそれのある部分以外の部分に限る。)及び屋根にあつては、三十分間)屋外に火炎を出す原因となる亀裂その他の損傷を生じないものであること。
下の表を見ると分かるように、準耐火構造は耐火構造と比べて火災に耐え得る時間が短く設定されています。間仕切り壁、外壁、柱、床、梁はそれぞれ45分間、軒裏を除く屋根および階段は30分間です。
建築物の部分 | 時間 |
---|---|
間仕切壁(耐力壁) | 45分 |
外壁(耐力壁) | 45分 |
柱 | 45分 |
床 | 45分 |
梁 | 45分 |
屋根(軒裏を除く) | 30分 |
階段 | 30分 |
防火構造とは
「防火構造」とは、耐火構造や準耐火構造と同じく防火性能の基準にかなう建築物の構造の一つです。耐火構造や準耐火構造ほど高い性能は求められないものの、防火地域および準防火地域(次の章で解説)に小規模な住居などを建てる際は、この防火構造の基準をクリアする必要があります。
防火構造については、建築基準法第2条第8号が次のように定めています。
防火構造 建築物の外壁又は軒裏の構造のうち、防火性能(建築物の周囲において発生する通常の火災による延焼を抑制するために当該外壁又は軒裏に必要とされる性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄網モルタル塗、しつくい塗その他の構造で、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。
出典:建築基準法第2条第8号
防火構造の要件を満たす方法としては、一例として以下のような選択肢があります。
- 屋内側に厚さ9.5mm以上の石膏ボードを貼る
- 屋内側に厚さ75mm以上のグラスウールやロックウールを充填した上で厚さ4mm以上の合板・構造用パネル・パーティクルボード・木材を貼る
- 屋外側に木毛セメント板もしくは石膏ボードの上に厚さ10mm以上のモルタルや漆喰を塗る
出典:防火構造の構造方法を定める件(国土交通省)
防火性能とは、建築物の周囲で通常の火災が発生した場合に、延焼を抑えるために必要とされる性能のことです。具体的には、以下を指します。
(防火性能に関する技術的基準)
法第二条第八号の政令で定める技術的基準は、次に掲げるものとする。
一 耐力壁である外壁にあつては、これに建築物の周囲において発生する通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後三十分間構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じないものであること。
二 外壁及び軒裏にあつては、これらに建築物の周囲において発生する通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後三十分間当該加熱面以外の面(屋内に面するものに限る。)の温度が可燃物燃焼温度以上に上昇しないものであること。
防火地域・準防火地域とは
「防火地域」「準防火地域」は、市街地における火災のリスクを回避・低減する目的で指定されたエリアのことを指します。防火地域は駅前などの繁華街や住宅密集地、幹線道路沿いなどで指定されているケースが多く、準防火地域はその周辺にあることが一般的です。
防火地域や準防火地域に住居やビルなどを建てる際は、構造や材料に一定の条件や規制が設けられます。
防火地域 | 準防火地域 | |
---|---|---|
耐火建築物(建築基準においてその主要構造部が耐火性能を満たし、かつ延焼の恐れがある開口部に防火戸などの火災を遮る設備を有する建築物)にしなければならない建物 | 地階を含め3階以上または延床面積100㎡超 | 地上4階以上または延床面積1500㎡超 |
耐火建築物もしくは準耐火建築物(建築基準において、耐火建築物以外の建築物のうち、その主要構造部が準耐火性能を満たし、かつ延焼の恐れがある開口部に防火戸などの火災を遮る設備を有する建築物)にしなければならない建物 | 上記に該当しないケース | 地上3階または延床面積500㎡超~1500㎡以下 |
上の表からも分かるとおり、防火地域のほうが準防火地域よりも制限が厳しくなっています。これから新築住宅の建造を検討している場合は、その土地が防火地域や準防火地域になっているかをしっかり確認しておきましょう。
防火地域・準防火地域は、各自治体の都市計画課やまちづくり推進課といった部署に問い合わせることで把握できます。また、Webサイトで都市計画マップを公開している各自治体もあるので、インターネットで探してみる方法もあります。
耐火構造の建築物を建てるメリット
火災のリスクが気になるなら、建築物を耐火構造にするのがおすすめです。以下では、耐火構造の建築物を建てるメリットをご紹介します。
- 防火地域に建築可能
- 火災保険料が比較的安くなる
- 火が回りにくい
防火地域に建築可能
先述したように、防火地域においては耐火建築物・準耐火建築物でなければ法律上ビルやマンションなどを建てることができません。しかし、耐火構造を備えた建築物なら問題なく建築できます。
火災保険料が安くなる
耐火構造の建築物を建てる2つ目のメリットは、以下で説明する「H構造(非耐火構造)」に比べて火災保険料が安くなる点です。
一般的に火災保険料は「M構造(マンション構造)」→「T構造(耐火構造)」→「H構造(非耐火構造)」の順に高くなります。「T構造(耐火構造)」には、コンクリート造建物、コンクリートブロック造建物、れんが造建物、石造建物、耐火建築物などの一戸建てのほか、鉄骨造建物、準耐火建造物、省令準耐火建物などの共同住宅および一戸建てが含まれます。
火災に強く燃えにくい建築物は、火災保険料が抑えられると覚えておきましょう。
火が回りにくい
耐火構造の建築物は火事が起きても燃えにくいため、全焼する前に消火してもらえる可能性が高いといえます。また、延焼しにくいことから二次被害を防ぎやすい点が挙げられます。この火の回りにくさが3つ目のメリットです。
耐火構造の建築物を建てるデメリット
大きいメリットがある一方で、耐火構造の建築物を建てることにはデメリットもあります。
- 建築費用が高くなりやすい
- リフォームやデザインに制限がある
建築費用が高くなりやすい
1つ目のデメリットは、防火区画の設置義務が生じることから費用が高くなりやすい点です。スパンドレルや袖壁(そでかべ)、不燃材料を使ったひさし、防火窓や防火ドア、防火シャッターといった特殊な設備が必要になるため、それらのコストが建築費用に乗ってきます。
リフォームやデザインに制限がある
耐火構造に準拠したリフォームをする場合、構造や材料に制約があるため、希望のリフォームプランを実現できない可能性もあります。また、「防火ドアや防火シャッターが建物のイメージにそぐわない」「窓のサイズや形状、外壁の仕上がりなどを自由に選べない」といったように、デザイン上の制限を受けることがあるかもしれません。
まとめ
火災による建物の倒壊や延焼を防ぐ性能を備えた「耐火構造」や、よく似た言葉である「準耐火構造」「防火構造」について解説しました。具体的な技術基準については建築基準法施行令の第107条、第107条の2、第108条をあらかじめ確認しておきましょう。
防火区画の貫通部処理で必要な貫通部防火措置製品について気になる方は、お気軽にネグロス電工までお問い合わせください。